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4月23日、桑名宿での食事
五目飯、鰆(さわら)のみそ漬焼、揚出大根、糠みそ漬(蕪・人参・胡瓜)、
ミニ花見弁当[卵焼、蒲鉾、煮海老、煮物(里芋・筍・人参)、菜花の浸し、くるみ飴煮、蛤時雨煮、桜餅]
 今回の桑名での献立は、3月26日の会で行なう予定でしたが、3月11日の東日本震災の影響で延期になったので、葉桜の季節に花見弁当ということになりました。
 江戸時代の旅籠(はたご)での庶民の夕食は一汁二菜程度でしたから、現在の私達には栄養的にも嗜好的にも不十分であり、ミニ花見弁当は試食する現代人のために加えたものです。
 桑名といえば名物は有名な焼蛤で、『東海道中膝栗毛』の弥次郎と北八も、桑名では焼蛤で酒を飲み、次の宿場四日市の手前にある富田でも、名物の焼蛤と飯で食事をしています。当時はこの辺の海沿いは、蛤が安価だったらしく富田の茶屋では「箱にしたいろりのようなものの中へ蛤をならべ、松かさをつかみ込み、あふぎたてて焼く」とあり、大皿に沢山盛った焼蛤を食べています。今回の献立では、焼き立ての蛤を供することは出来ないので、焼蛤と同様に桑名名物の時雨蛤(しぐれはまぐり)を用いました。
 時雨蛤は『料理早指南』初編(1801)に「時雨蛤は勢州桑名より出るものを名物とす。しかれども新にこしらへるもかへって風味よし。大はまぐりなまにてむき、すぐに酒にてよく煮こぼし、花かつをたくさんに入れ、また酒を醤油にてしたじの煮へひるまでよく煮る也」とあります。時雨蛤の名は、晩秋の降ったり止んだりの時雨のように、噛んでいると色々の味が口の中を通り過ぎるからともいわれていいます。
 五目飯は器に盛ってから吸物味のかけ汁をかけて食べるところが現在の五目飯と違います。鯛飯・牡蠣(かき)飯・筍飯なども汁をかけています。揚出(あげだし)大根は、大根を小ぶりに切って胡麻油で揚げ、おろし大根と醤油、または胡麻みそ・木の芽みそなどを添えて供するもので、煎出(いりだし)大根ともいいます。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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