バックナンバーへ
戻る
東都名所遊観 葉月高輪
香蝶楼豊国(三代目歌川豊国1786−1864)画 国立国会図書館所蔵
 
 今年の十五夜の月見は9月28日で、旧暦の8月15日に当たります。上の絵の「葉月高輪(はつきたかなわ)」は8月の高輪で、十五夜の月を描いています。
 当時の高輪は、現在の田町から品川の間にあり、後には三田の丘が連なり、前には品川の海が開けて景勝の地でした。
 また東海道を往来する旅人が江戸へ出入する門戸として高輪大木戸があり、付近には茶店が並んで、送迎や遊覧の人々で賑わっていました。
 
 品川の海を望む高輪は月見の名所としても知られ、とくに十五夜の夜は大層な賑わいだったといいます。
 三枚続きの上の絵の右側には、月への供え物をのせた三宝があり、左側の女性は、すすきの束と、蛤らしい貝をざるに入れて売りに来たようです。月見と蛤は何か関係があるのでしょうか。
 調べてみると、本山荻舟著『飲食事典』(1958)の蛤の項に次のようにありました。「昔は三月三日(陰暦)の雛節供を境として、仲秋の八月十五夜までは食わないならいであった。−中略−一夏を過して親貝は体力を回復し、稚貝もようやく成長するのが秋冬期で、まづ仲秋の観月宴に吸物として供するのが、シーズンのはじめであった」
 NO.60の「江戸の柏餅」で紹介した鰹節商「にんべん」の高津家に伝わる「家内年中行事」を見ると、文化12年(1815)8月15日の月見には、供え物として団子・ぶどう・枝豆・梨子・里芋・柿・もみ大根の7品があり、夕飯には蛤3斗位とあります。嘉永6年(1853)の8月15日にも夕飯に蛤3斗2升位とあります。江戸時代には月見には蛤の吸物の風習があったようです。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
掲載情報の著作権は歌舞伎座に帰属しますので、無断転用を禁止します。
Copyright(C) 2004 松下幸子・歌舞伎座事業株式会社