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江戸名所百人美女 日本ばし
歌川豊国(三代目)、歌川国久画 安政4年11月  『魚づくし』組本社刊
この絵は「江戸名所百人美女」の1枚で、左上の枠内には「日本ばし」とあり、歌川国久が魚市場の光景を描いています。「江戸名所百人美女」は、今までにNO.155の「日ぐらしの里」をはじめ「鉄砲洲」「呉服ばし」「十軒店」「浅草」などを取り上げましたが、どれも枠内の江戸名所の絵は歌川国久が描いています。国久は国貞(後の三代目豊国)と同じ初代歌川豊国の門人でした。
江戸名所の中でも第一は日本橋で、五街道の起点でもあり、北岸には魚市場がありました。橋の周辺の日本橋の街も本町・大伝馬町・小伝馬町・馬喰町(ばくろちょう)など、江戸の経済の中心として繁栄していました。
女性の前の長火鉢には銅壺(どうこ)が見え徳利で酒の燗(かん)をしています。銅壺は銅製の器物で、かまどの側壁に塗り込んだり、火鉢に仕込んだりする湯わかしです。
手前の深鉢には蛸の煮物が入っていて、女性は蛸の足を一つつまんで酒の肴にし、左手には猪口を持っています。蛸は古くから食用にされており、江戸時代の料理書では煮物のほか、刺身・膾・吸物・蒲鉾の材料などに用いられています。
「江戸食文化紀行」は「歌舞伎座メールマガジン」の創刊号(2001年3月23日発行)から掲載し、現在は名称が「歌舞伎美人メールマガジン」に変わりましたが連載し、「芝居と食べ物」の20回に「江戸の美味探訪」の280回を加えると、12年間300回の連載になりました。食べ物のある錦絵で使用可能なものはほとんど無くなりましたので、このNO.281を最終回といたします。
錦絵の使用を許可していただいた諸機関と個人の方々には、心からお礼を申し上げます。
原稿を書くための努力は私自身の勉強になり、12年間休載することもなく連載させていただいた幸運にも感謝のほかはありません。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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