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見立源氏はるの宴
歌川豊国(三代目)画 『魚づくし』組本社刊
 絵の題に「見立源氏はなの宴」とあるように、『偐紫(にせむらさき)田舎源氏』の足利光氏が主人公の春の酒宴の光景です。二階建の遊廓の中庭に満開の桜を背景に、手前の座敷には主人公の両側に花魁(おいらん)が2人、右端の禿(かむろ)は結び文を差し出しています。
 酒宴の料理は一部分しか見えませんが、右から握りずし、刺身、左端に少し見えるのは重箱に入った口取りのようです。
 握りずしは江戸後期の文化の初め頃、江戸深川の「松のすし」がつくり始めたといわれていますが、当時の握りずしを描いた錦絵は少なく、これまでに紹介したのは、NO.253の歌川国芳の「縞揃女弁慶」だけです。上の絵の握りずしは丁寧に描かれており、下に卵の巻きずし、上に車海老の握りずしと、小鰭(こはだ)らしい握りずしが見えます。
 『守貞謾稿』(1853)では握りずしの種類として、鶏卵焼・車海老・海老そぼろ・白魚・まぐろさしみ・こはだ・あなご甘煮をあげています。
 大皿の刺身は赤と白の2種類がありますが、『守貞謾稿』には「鯛・鮃(ひらめ)は肉白く、鮪の属は赤肉なり。この赤白二種を並べ盛るを作り合せといふ」とあります。また「鯛・鮃には辛味噌あるひはわさび醤油を用ひ、鮪・鰹等には大根卸しの醤油を好しとす」とあり、刺身の大皿の右端にある二つの器は、それを入れるものと思われます。
 刺身に添える物については「江戸、刺身添え物、三、四種を加ふ。糸切大根、同うど、生紫海苔、生防風、姫蓼(ひめたで)。粗なる物には、黄菊、うご(海藻のオゴノリの異名)、大根卸し等を専らとす。」とあります。
 現在は刺身に添える物を「つま」とよびますが、江戸時代には「つま」は添える物を指し、汁物や膾などでも主材料に添える野菜や海藻を「つま」とよびました。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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