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江戸高名会亭尽 両国青柳
歌川広重画 『魚づくし』組本社刊
 絵の題に「江戸高名会亭尽」両国とありますから、御料理青柳は東両国の駒留橋近くにあった料理屋青柳です。両国橋にも近いので繁盛したようですが、明治になる前になくなったそうです。
 中央の出入口から、料理を盛った大きな器を二つ、盆にのせて出てきた女性は、手前の船に運び込むところです。2人の女性が船に乗り、料理屋の客と一緒に夕涼みに出かける光景でしょう。右上の狂句合に「青柳は妙月雪と花火の夜」とあり、花火見物のできる旧暦5月28日から8月28日までの、両国橋の夕涼みの期間中と思われます。
 隅田川の夕涼みの船の多くは、この絵のような4本柱に屋根をつけた屋根船とよばれる小形の船で、大形の屋形船の数は少なかったようです。
 船の中の料理についてはよくわかりませんが、享和2年(1802)刊の『料理早指南』2編に、船遊の重詰の献立があり、その中の夏の重詰の献立は次のようなものです。
初重五種 あかえひのこごり煮、赤貝、麹漬の鮭(笹の葉包)、漬わらび、さがらめ(ほそくきざむ)
二重冷物(ひやしもの) そうめん豆腐、いとささげ、大猪口にかへし汁入
三重早鮨 あぢ、小鯛、あわび、えび、きす、のり巻。新生姜・穂たで・めうがたけを添える
四重菓子 葛まんぢう、水やうかん、うきふ、金玉糖、こほり餅
 そうめん豆腐は、うどん豆腐ともいい、豆腐を摺り、紙に薄くぬりつけて蒸し、水につけて紙からはがしてほそく切ったもので、つけ汁をつけて食べるもの。早鮨は馴れずしのように発酵させず、飯に酢を加えてつくるすしのことで、まだ握りずしのない享和期ですから押しずしです。200年余り前の献立ですが現代の私たちにも魅力があります。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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