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うなぎなまず 見立五行 火
歌川国芳画 『魚づくし』組本社刊
 この絵の題は「見立五行 火」とあります。辞書によると五行(ごぎょう)は、中国で万物を生じ万象を変化させる五気としての木火土金水をいうとあります。また五行説は、中国で万象の生成変化を説明するための理論で、宇宙間には木火土金水によって象徴される五気がはびこっており、万物は五気のうちのいずれかのはたらきによって生じ、万象の変化は五気の勢力の交替循環によって起こるとする考え方とあります。五行説は中国の戦国時代中期に始まり、漢代になると陰陽説と結合して陰陽五行説として中国人の生活に滲透しています。
 陰陽五行説は日本へも伝わり、暦法や医学に取り入れられていますが、庶民の絵である錦絵に五行とあるのは、庶民の常識でもあったのでしょうか。
 五行の火と、この絵との関連は、いろいろ考えてみましたがわからず、見立(みたて)とあるので、桜と女性の着物の緋色(ひいろ)を、火に見立てたのではと考えました。女性の右手は、前にある盥(たらい)の中の鯰(なまず)と鰻(うなぎ)をつかまえようとしているように見えますが、両方とも体表には粘液が多く難しいようです。
 鰻は蒲焼などで江戸時代から人気がありますが、鯰は料理書への登場も少なく、多くは摺り身にして蒲鉾の材料とされています。『料理物語』(1643)には鯰の料理法として「汁 かまぼこ なべ焼 杉やき」とあります。
 鯰は昔から地震と関係があるようにいわれ、地の中で大鯰が暴れると地震が起こるとされていました。安政の大地震(1855)の時には地震と鯰を描いたいろいろな「鯰絵」が江戸市中に出回っています。科学的な実験などでは、鯰をはじめいろいろな魚が、地震の前に興奮することはあるそうですが、鯰が騒いでも地震が起こるとは限らず、地震の予知は非常に難しい、地球物理学の課題ということです。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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