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えびすやののれんの鯛
香蝶楼国貞(のちの三代豊国)画 『魚づくし』組本社刊
 「ゑびすや」とあるのれんに、大きく恵比須と鯛が染め出されています。調べたところでは、ゑびすやは江戸の尾張町にあった呉服屋のようです。三都(京都・江戸・大坂)の名物を記した安永6年(1777)刊の『富貴地座位(ふきぢざい)』の、江戸名物衣服の部に、日本橋の白木屋彦次郎、するが丁の越後屋八郎右衛門の次に、尾張町の蛭子(えびす)屋八郎兵衛とあって、「お江戸にさたのつよい唐ちりめん」と評判が書かれています。
 ゑびすは一般に恵比須と書き、七福神の一神で、外来の六神に対して唯一日本の神様です。七福神は幸福をもたらす七神の総称で、室町時代に始まる民間信仰で、現在も正月の七福神まいりなどで知られています。大黒天は富貴長寿の神で、もとはインドの戦闘の神。毘沙門天は知恵と勇気の守り神で、もとはインドの仏法守護の神。弁才天は商売・芸能の神で、もとはインドの豊饒の神。福禄寿は中国の福徳・財運・長寿の神。寿老人は長寿の神で、福禄寿と同じ神とも、中国の宋時代の人ともいわれています。布袋尊(ほていそん)は長寿・無病息災の神で、中国の唐時代の布袋和尚がモデルともいいます。恵比須は夷とも書き、田の神・大漁の神・商売繁盛の神とされています。
 恵比寿はイザナギとイザナギの命(みこと)の子の蛭子神とする説、大国主命の子の事代主命とする説、神宮皇后が朝鮮から凱旋したときに、大きな鯛を釣って祝宴を開いた夷三郎という神宮とする説などがあります。兵庫県の西宮神社には漁業の守護神とされる事代主命が祭られており、西宮神社ではかつて、付近の漁師が大鯛を奉納して大漁祈願の神事を盛大に行なったといいます。江戸時代には10月20日に、商売繁盛を祈って恵比須を祭る恵比須講が行われましたが、その祝膳には鯛が欠かせないものでした。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
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