バックナンバーへ
戻る
東海道五十三次の内 鞠子の図
香蝶楼国貞(のちの三代目歌川豊国)画 国立国会図書館所蔵
 この絵は、国貞(のちの三代目豊国)の「鞠子の図」ですが、手前に大きく描かれた女性の部分以外は、とろろ汁の看板の店も、2人の客も背景も、広重の保永堂版の「東海道五十三次の内 鞠子」の図によく似ています。広重の「竪(たて)絵東海道 鞠子」では、街道の両側にとろろ汁の店が何軒も並んでおり、鞠子といえばとろろ汁だったようです。
 とろろ汁の作り方などはNO.71に書きましたので、今回はとろろ汁を食べるとどんな効果があるかなどを紹介します。
 
江戸時代初期に刊行された『和歌食物本草』は、和歌の形式で書かれた啓蒙的な本草書(漢方で動植物・鉱物などの薬効を書いた本)で、240種ほどの食品をいろは順に並べて、それぞれの食品について和歌を記しています。
 やまのいもについては次のように書かれており、読みやすいように平仮名を漢字に直して書くと「山の芋甘く温(うん)なり又は平(へい)腎を補い気力よくます」、「山の芋物忘れする人によし やせたる人の肌(はだへ)うるほす」、「山の芋労さいによし 小便のしきりに繁き人は食せよ」などがあります。これをみると、物忘れや頻尿などの高齢者には効果があるようです。また「松の内にとろろ汁を食べると中風にならない」という俗信もあったそうです。なお、山の芋は薬効があるところから山薬(さんやく)とも呼ばれています。
 江戸時代料理書には、とろろ汁以外の山の芋の料理として次のようなものがあります。『臨時客応接』(1830)には、「とろろ鰹 鰹を大さいの目に切 山の芋おろしすりて 大根のしぼり汁と酢醤油合わせてのばし 沢山にかける」。このとろろ鰹は他の料理書にもあり、よく作られていたようです。現在は山の芋をすりおろしてかけた料理を「山かけ」と呼び、鮪の山かけなどがあり、江戸時代の鰹が鮪に代わっています。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
掲載情報の著作権は歌舞伎座に帰属しますので、無断転用を禁止します。
Copyright(C) 2010 松下幸子・歌舞伎座サービス株式会社