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大江戸芝居年中行事 くじ取
安達吟光(松斎)画 明治30年4月 国立国会図書館所蔵
 毎年11月の歌舞伎座の公演も顔見世とよばれていますが、江戸時代の11月の顔見世は、向こう1年間の一座の顔ぶれを披露する特別な興行でした。興行のシステムが現在とは違い、10月に次の年の役者の振り分けが行われ、三座(中村座・市村座・森田座)の太夫元や金主などの会合で談合してきめ、談合できまらない場合は、くじ引きできめたのだそうです。
 上の絵には「大江戸芝居年中行事」とあり、江戸の猿若町の芝居風景を描いた版画の1枚で、「くじ取」とありますから、役者を振り分けるくじ引きの光景です。
 左上の文章には「その昔、三座の役者入替りには、先づその座元達、手代・奥役等を引連れ料理屋に会合し、役者を上中下のくじに作り、これを引きて定まりたるを面附
(つらづけ)とも顔見世番附ともいふ。引く人も引かるる人もおしなべて当りを願ふ花のくじとり」とあります。
 くじ引きのための料理屋の座敷に集まった人々の前には、それぞれの折敷(おしき)が置かれ、朱塗りの椀と酒肴の皿があります。中央の大皿の1枚は見事な鯛の姿焼きで、もう1枚はよくわかりませんが刺身でしょうか。左端に立っている人は、これから座に着くところで、徳利を運んできた女性もいますから、酒宴が始まるところのようです。
 汁と吸物は同じような汁物ですが、飯に添えるのが汁で、酒の肴として供するのは吸物と定義されています。江戸時代料理書には、汁の部と吸物の部は区別して記載されており、汁は飯に添える副菜なので味は濃いめにし、吸物は酒に合うよう軽く薄めの味にして綺麗につくり、供する時機を大切にするとしています。このようなことから、絵の中の朱塗りの椀は酒の肴の吸物と思われます。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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