バックナンバーへ
戻る
江戸名所百人美女 十軒店
歌川豊国(三代目)、歌川国久画 安政5年 国立国会図書館所蔵
 内裏雛を前に雛の冠を手にしている女性と、十軒店(じっけんだな)の絵の組み合わせからみると、雛祭が近づいて十軒店の雛人形店から内裏雛を買ってきたところでしょうか。
 十軒店は『江戸名所図会』(1834)には、「本町
(ほんちょう)と石町(こくちょう)の間の大通りをいふ。桃の佳節を待ち得ては、大裡雛(だいりびな)・裸人形・手道具などのみせ、軒端を並べたり。端午には、冑(かぶと)人形・菖蒲刀ここに市を立てて、その賑ひをさをさ弥生の雛市におとらず。また年の暮に至れば、春を迎ふる破魔弓・手毬・破胡板(はごいた)を商ふ」とあります。
 十軒店の地名は、仮設の店が十軒ほど通りの両側に並んだのが始まりのためといわれています。雛市は尾張町・浅草茅(かや)町・池の端仲町・麹町・駒込などにもありましたが、十軒店には及ばなかったといいます。
 雛市で有名な十軒店でも市の立つ時期以外は、大根や牛蒡などの青物を売っていたそうです。十軒店の場所は、現在の日本橋室町3、4丁目あたりの中央通りの両側にあたります。

 雛人形の飾り方にも変遷があり、江戸初期には雛壇はなく、敷物の上に一対の雛を並べて供物を飾る程度でしたが、江戸後期には雛壇も7、8段になり、雛道具も華美なものになりました。
 特に豪華な例ですが、天保12年(1841)に輿入された一橋徳川家七代慶寿夫人の雛道具は110件以上もあり、食事道具では本膳、二の膳、三の膳などの膳部一式が揃っています。雛に供える献立は次のようなものでした。

[本膳]親椀(赤のご飯)、汁椀(白味噌汁・はんぺん・さやえんどう)、平椀(甘煮・はす・くわい・人参)、口取皿(きんとん・紅白蒲鉾)、高杯(香の物)
[二の膳]吸物椀(すまし汁・豆腐・うど)、猪口(わけぎのぬた)、坪椀(みつ葉の浸し)

[三の膳]皿(塩焼小鯛尾頭付)

 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
掲載情報の著作権は歌舞伎座に帰属しますので、無断転用を禁止します。
Copyright(C) 2009 松下幸子・歌舞伎座事業株式会社