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當世若三人
歌川豊国(三代目)画 安政3年(1856) 国立国会図書館所蔵
 猛暑つづきの夏にふさわしい花火と役者の絵を選んでみたのですが、手前に見える料理以外は、3人の役者が誰なのか見当もつきません。そこで国立劇場の石橋先生に教えを乞いましたところ、詳細なご教示をいただきました。私だけの知識にとどめるのはもったいないので、教えていただいたままを引用させていただくことにしました。
 場所は花火のよく見える隅田川べりの料亭らしく、絵に登場させた3人の役者は、右から三代目岩井粂三郎(のちの八代目半四郎)、五代目坂東彦三郎、初代中村福助(のちの四代目芝翫)です。役者の名は似顔でわかり、さらに粂三郎は衣裳やうちわに家紋のかきつばたの花をデザインし、「井○井」(岩井)の模様も付けています。福助は、やはり家紋の「ふくら雀」の柄の浴衣を着ています。彦三郎はこの3月(安政3年)に竹三郎から彦三郎を襲名したばかりなので、それをアピールするために中央に置いたようです。
 表題の「若三人」というのは、「和歌三神」をもじったもので、和歌の神様とされる住吉明神、玉津島明神、柿ノ本人麻呂に、若手の人気役者3人を見立てたという趣好です。

 以上が引用ですが、わかる方にはわかるものと敬服するばかりです。

 左手前の料理は、大皿の上のすだれに盛った刺身、煮物らしい深鉢と重箱で、徳利と猪口も見えます。右手前の大きい深鉢は盃洗のようです。三代目歌川豊国(1786−1864)の描いた酒宴の絵には大抵刺身があり、当時のご馳走の第一は刺身だったようです。
 NO.140にも書きましたが、江戸時代後期は小氷期で気温が低かったことも、冷蔵設備のない時代に刺身が流行した一因ではないでしょうか。先日新聞紙上に江戸後期に雪の結晶の研究があるのは気温が低かったためとあり、「寒冷化の江戸」の見出しがありました。

 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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